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 元来、鬼は天つ神に対する邪神のことを指すといいます。
 恐ろしい姿の物の怪で、赤鬼・青鬼などは昔話でもお馴染みです。
 大津絵に登場するのは二本角の赤鬼ですが、このような姿に描かれるのは、陰陽道の影響のようです。
 人の姿に、牛の二本角、虎の牙を生やし、裸で虎の皮のふんどしを締めているのが定番です。


 今でこそ大津絵といえば鬼をモチーフにしたものが代表のようになっていますが、最初期の大津絵には登場しない絵柄です。
 それでも、風刺画の中では登場が早い方で、江戸の中期頃には「瓢箪鯰」や「寿老人」などと並び、「鬼の寒念仏」が人気を博すようになっていきました。
 元禄期の俳句に
 「いらふ程鬼の和らぐ追分絵」 作者不詳
 とあり、この時代には既に鬼が描かれていたことが伺えます。

 一旦、鬼が人気を得れば、後は当時の大津絵師達が次々と新しい画題を考案していきました。
 「鬼の寒念仏
 「鬼三味線
 「鬼と柊
 「雷公の太鼓釣
 「雷と奴
 「鬼の行水
 などが、現在伝わっている鬼の絵柄の代表です。
 「寒念仏」や「雷公」は特に人気があり、同種の画題の中にも様々な画風が存在しています。

 大津絵師は特に「雷」と「鬼」を区別していないことが、絵を見ると解ります。
 俵屋宗達が江戸初期に描いた「風神雷神図屏風」にも雷が登場しますが、このあたりが大津絵にも影響を与えた可能性も指摘されているところです。

 ともあれ、「鬼=雷」が人々に畏れをもって膾炙していたことは間違いなく、その怖い鬼が滑稽な姿を演じるところが大津絵の鬼が面白がられた理由でしょう。


鬼の寒念仏大津絵に登場する鬼は、「風刺画」と呼ばれることからもわかるように、人の愚かさや邪悪さを象徴した存在です。
 中でも「鬼の寒念仏」は、僧衣を纏う鬼が偽善者の姿を表しています。
 知らぬは本人ばかりなのか、顔かたちは鬼のままで、衣装・小道具だけを僧侶にしても無駄だということです。

 今ではあまり耳にしませんが「鬼の空念仏」という言葉があります。
 大津絵の鬼とどちらが先に生まれたのかはわかりませんが、意味はほぼ同じで、無慈悲な者が形だけの慈悲を装う事を指す言葉です。

 ところで、この「寒念仏」の鬼だけが片方の角が折れて描かれているのですが、これは人の「我」を表す角を折ることで幾分の救いを示しているのだと言われています。