F02 『瓢箪鯰』 A

無地色紙

 大津絵には鬼がよく登場しますが、猿もまたよく見かける画題です。
 庚申信仰の神、青面金剛図が最も古い猿の登場する絵ですが、有名なのは瓢箪鯰の図でしょう。

 その昔、将軍足利義持が画僧如拙に描かせた禅画瓢鯰図(国宝)が、京都妙心寺にあります。
 その図では襦袢姿の老僧が瓢(ひさご)を手にして鯰を押さえ捕ろうとしていて、猿は登場していません。
 大津絵は、それを猿に置き換えることで笑いを得たのでした。

元来の図の意味は定かではありませんが、
 
「憎らしい人の心もなまず哉」

という句を添えて、のらりくらりとした人の心を諷刺したものであるともいわれています。
人は人間より少々知恵の足りないものを猿に喩え、揶揄してきましたが、今の世、人間の知恵も行いも、猿知恵に似たところが数知れずあるのでは、と考えさせられます。

「瓢箪に似たる思案の猿知恵でいつ本心のなまず押さえん」

「道ならぬ物をほしがる山ざるの心ならずや淵にしづまん」

鬼であれ、猿であれ、人の姿を他の物に置き換えることで諷刺を利かす手法は同じで、「瓢箪鯰」も大津絵の代表として大津絵十種にも選ばれました。
その人気故、同じ画題でも何種類かの画風が伝わっており、上図はそのうち現在最も親しまれている形です。

 「諸事円満に解決し水魚の交わりを結ぶ」効があると伝えられています。





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