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 大津絵を愛好した俳人は数知れません。

 「大津絵の筆のはじめは何佛」 芭蕉 元禄四年

 この俳句が、現在最も有名な大津絵を読み込んだ句です。
 「大津絵」という言葉が登場するのは、この句が最初で、それまでは単に追分・大谷近辺で売られる「絵」という呼ばれ方でした。
 この句の詳しい解説は、伊藤洋さんのページ中「芭蕉DB」が参考になるでしょう。

 近年、大津絵研究者の方々が、これより二年前の作の俳句を発見されました。

 「追分の絵師もしらじなけさの春」 和風 元禄二年

 現在のところ、これが大津絵関連の俳句としては最古のものです。


 大津絵を詠んだ俳句を網羅するとかなりの分量になりますが、そのうち代表的なものは以下の通りです。

大津絵全般に関する句
追分の絵師もしらじなけさの春
和風
大津絵の胡粉の顔の暑さかな
楚羊
大津絵の下り土産やちるさくら
虎占
大津絵に糞落し行燕かな
蕪村
大津絵に丹のすぎたる暑さかな
蓼太
はつ雪や大津の絵師の胡粉皿
夜笛
大津絵や昔は去りししがの春
松雨
大津絵にふかぬ日もなし春の風
万和
大津絵を栞につけし枯野かな
井眉
大津絵を馬から覗く小春かな
蕉雨
大津絵の近江の春を惜しみけり
静石

仏画に関する句
大津絵の筆のはじめは何佛
芭蕉
追分の絵佛に後生を打任せ
大津絵や佛の数もつくつくし
青魚
大津絵の佛ももたす網代守
a朗
大津絵の佛尊や土用干
霞遊

鬼に関する句
いらふほど鬼の和らぐ追分絵
不詳
打折るや角も氷の寒念佛
其角
鬼ゆりやほうけもつかずそら念佛
只尺
物くれぬ人に鬼あり寒念佛
田社
角のある大津あたりの寒念佛
五巵
店先に鬼の念佛や夏ころも
古童
丹をべたべたと大津絵の鬼
田福
大津絵の鬼も衣も肌さむし
也有
大津絵の鬼売りきれて秋の風
孤秀
大津絵の鬼も眠るか春の風
青峨
大津絵の鬼も見じとや暖の鳥
一茶
そっくりと大津の鬼や寒念佛
一茶
大津絵の鬼も傘させ時雨の夜
琴志
売れ残る大津絵の鬼春暮るゝ
子規
あの中に鬼やまじらん寒念佛
子規
大津絵の鬼の朱色の大暑かな
能村
登四郎

その他の画題に関する句
藤かざす人や大津の絵のすがた
許六
大津絵のゑどりも暑し甲武者
史邦
大津絵の鶯もなけ三十三とも
兎城
春の夜の犬はあやなしめくら打
米仲
振袖のむかし短し藤の花
蓼太
振返る若衆も鷹の眼ざしかな
蓼太
大津絵や尻肌寒きひげ奴
東寓
大津絵や奴の髭に秋の風
馬徨
かたげなば大津絵に似んふぢの花
虚白
大津絵や幾春経ても若々し
烏艸
昔し絵の春やゆかしく辨慶藤娘
子規

 こう見ると、やはり鬼に関する句が多く、「鬼の寒念仏」の当時(江戸時代)の人気がわかります。
 また、街道筋で旅人相手に売っていた大津絵師達の様子も伺われて、興味が尽きません。